4日連続パリの公共交通機関がすべて無料に。大気汚染はパリを交通機関無料化の社会実験の場に変えた。

2016年12月10日      2016年12月10日
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深刻な大気汚染が原因で火曜日から4日連続でパリ市を中心とするイル=ド=フランス圏に異例の措置が出ています。全公共交通機関の無料化です。この期間はパリ市内にある地下鉄、電車、バス、トラム、コミュニティサイクルがすべて無料で利用でき、都市を勉強するものとしてせっかくの機会なので上にあげた全ての公共交通機関に乗って、この措置がどんなインパクトを与えているのかを見てきました。

この記事では、1)公共交通機関無料化の理由、2)普段とは違う非日常のパリの様子、3)公共交通機関無料化が与える都市へのインパクトついて僕が思うところをお話します。図らずも貴重な4日間になりました。

今パリで何が起こっているのか

話を整理するとこうです。

  • 12月初旬にもかかわらず先週から1週間近くパリを含むフランス北部では高気圧による晴天+高気温が続いていた。
  • 特にパリは京都のような盆地の底に位置しているため影響を受けやすい。
  • 自動車から排出される排気ガスによって日に日に大気汚染が進んでいくことに。

この大気汚染はこれまでも何度かパリを襲っていて、さすがに中国の大気汚染ほどではないにしても、例えば昼間でもエッフェル塔が霞んで見えるといったように徐々にその影響が目に見えるものになっていき、日曜日から月曜日にかけて健康に害を及ぼす段階まで達しました。

そこでパリ市が打ち出したのが、これ以上の大気汚染を抑えるための施策、その名も#StopPollution計画。

その計画の内容というのが大きく分けて二本柱となっていて、パリ市は市内全域で

  • 公共交通機関の無料化
  • 車のナンバーによる交通規制

を4日連続で行いました。

公共交通機関の無料化

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毎年夏に行われるセーヌ川沿い道路の歩行者天国イベント

パリ市は以前から公害対策に取り組んでいて、例えばセーヌ川沿いの道路を夏の間ビーチにしたり、シャンゼリゼ通りを毎月第一日曜日に歩行者天国にしたりと「アンチ自動車・プロ歩行者イベント」を実施しているのですが、その公害対策として公共交通機関を無料にしたのは今年初の試みです。

無料化の狙いはパリ市を中心としたイル=ド=フランス圏にある公共交通機関をすべて開放することにより、自動車によるこれ以上の大気汚染を防ぐことで、下記の交通機関が無料となりました。

  • 地下鉄
  • 電車
  • バス
  • トラム
  • コミュニティサイクル

車のナンバーによる交通制限

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公共交通機関無料化と同時に実施されたもう一つの施策。パリ市は車のナンバープレートの数字が偶数か奇数かによって交通制限を行いました。

例えば火曜日は偶数ナンバーの車のみがパリ市内を走行できる。水曜日は反対に奇数ナンバーの車だけ。といった感じで交互に交通制限が行われています。(フランス語ではこのことをCirculation alternéeと呼んでいる)

こうした制限があると、タクシーやバスドライバーのような運転を仕事にしている人はどうなるのかと考えるかもしれません。実際、この交通制限にはかなりの例外があって、パリ市の公式サイトによると例えば次のような条件を満たす車両は例外とみなされるそう。

  • 3人以上同乗者のいる車
  • クリーンカー
  • 救急車
  • タクシー
  • 自動車教習所の車
  • 冷凍運送トラック

この交通制限を破ると最大35ユーロの罰金刑があって、事情を知らされていないドライバーたちがパリ市郊外からパリ市内へ入る道路上で警察に捕まっていました。下は実際にパリの西部から市内へ入るPorte d’Auteuil「ポルト・ドトゥイユ」で行われていた検問。

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無料開放中の各交通機関

普段はコミュニティサイクル¹しか乗らないのですが、この機会を活かしてバス、メトロ、電車、トラムの順番ですべての交通機関に乗ってきました。普通なら7〜8ユーロぐらいはかかるところを無料でいけるので移動が気楽です。

※¹:Vélib’「ヴェリブ」という名前のコミュニティサイクルがパリ市内では年間30ユーロほどで利用できます。ひと月当たり約3ユーロ。激安。

無料期間中のバスに乗車

家の前を走る道がバス通りなので、特に目的地を決めずに乗車。フランスのバスは日本よりも長い。

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乗車時に切符を通す機械に無料ステッカーが貼られていました。

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バスに乗っていて気づいたのが、「公共交通機関無料化」の情報を知らずに間違えて切符を機械に通そうとする人の多いこと。この無料化はテレビ、ネットでは数日前から盛んに伝えられているのですが、この2つの媒体を利用していない人からすると何が起きているんだ状態なのかもしれません。

無料期間中のコミュニティサイクルに乗車

バスを降りて今度はコミュニティサイクルを無料で利用してみることに。パリ市内には街中にこの下の画像のような自転車のポートが1000箇所以上あり、登録すれば好きなところで自転車を乗り降りできます。

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自転車を借りる機械には普段と違うDISPOSITIF ANTI-POLLUTION「大気汚染への対抗策」の文字があり、会員登録していない人でもこの無料開放期間中は借りることができます。

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僕は年間登録してあるので会員カードを持っているのですがせっかくなので、無料の1日券を発券して利用してみました。

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無料期間中の地下鉄を利用

パリ市内には東京よりも高密度に地下鉄の線が走っている²ので無料化になると移動が楽々に。 普段は改札を通る時に定期券もしくは切符を機械に通す/かざす必要があるのですがこの日は別。

※²:2016年現在14本の地下鉄線が走っている。

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改札にはレバーがあるのですが、無料期間中は何もかざしたり通したりすることなく通ることができます。

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上の画像のように別の入り口は完全に開放されています。

この無料地下鉄に乗って今度はパリ市内を縦断・横断して走る電車に乗りに向かいます。

無料期間中の電車を利用

電車の改札も地下鉄と同様に何も持たずに通り抜けることができます。

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無料開放されているので混んでいるかと思いきや、お昼過ぎのホームは下のような感じで人はまばら。

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無料期間中のトラムに乗車

最後はパリ市内の周縁部を走るトラムに乗ってみることに。バスと違って車内には「本日無料」のようなマークやシールは何もなかったけれど、切符読み取り機械は停止していました。

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1日公共交通機関を無料で乗ってみての所感

お昼頃から夜8時にかけてパリ市内の公共交通機関をすべて利用してみて思ったことは下記の2点。

  1. 意外と混乱は少ない
  2. 公共交通機関が無料になった都市の感覚を味わった

意外と混乱は少ない

公共交通機関開放の日、全く別の電気トラブルでパリ北駅からシャルルドゴール空港へ向かう電車が運休になるトラブルはありましたが、それ以外の地下鉄構内やバス車内、中心部でこれといった混乱はなかったように思えます。

もちろんこの記事の途中で紹介したような、無料化の情報・自動車交通規制の情報を見聞きしていないドライバーと取り締まりを行う警察との間ではいざこざがあったようですが、それ以外は地下鉄が普段より少し混んでいるかな?ぐらいの感覚で落ち着いていた印象。

ただ、こういう生活に関わる情報をどう市民に伝えていくかという点では、今回の無料化施策は今後大きなイベントを控える東京としても注視するべき事例であることは間違いないです。テレビも見ない、ラジオも聞かない市民にどう情報を伝えればいいのか、その点ではやはり地域のコミュニティー作り、それこそ回覧板やお知らせ板のようなものの必要性を感じます。僕は現在パリ13区のバス通りに面した7階建てアパルトマンの6階に暮らしていますが、住民同士の交流も回覧板もありません。

それと話を戻すと、僕が訪れたサン・ラザール駅とパリ北駅の駅構内には普段路上で生活しているであろう人が結構大勢で、寒さをしのぐために改札内のスペースにやってきていました。この点は無料化がもたらす負の側面と捉えていいかもしれない。

交通機関無料都市の社会実験とそのインパクト

以前、wiredで「公共交通機関を無料にしたら都市はどうなるのか」を検証した社会実験についての記事を読んだことがあるのですが、この4日間はまさにその公共交通機関無料都市の実験の場となったパリ。

個人的な印象としては、改札が役割を果たさない場所で、切符や定期を持たず、ちょっとした移動にも乗り物を使える都市内での移動はものすごく身軽に感じました。それは財布を持たなくていいから身体的に身軽という理由からではなく、精神的に移動が自由という感覚を味わえたことから。

特に大きな混乱もなく、マイナス面も局所的なものであればパリ市内で「アンチ自動車計画」を進める枠内で今後、試験導入するのも面白いかなと考えたのですが、今回の実施には1日当たり400万ユーロの費用が発生しているようで、金銭面では結構ヘビーな施策みたい。

ただオランダやスイス、北欧のようなもっと小さい福祉国家の都市なら実現も不可能ではなさそうな気もするし、東京でもオリンピックに合わせて期間限定&地域限定³で行えば都市交通の利便性を世界にアピールするチャンスになるかもしれません。

※³:例えば山手線内を走る公共交通機関や主要駅から会場をつなぐ路線に限定して。

そんなことを考えられたのも今回の施策があってのことなので、今回の無料化はそんな社会実験を見ることのできるチャンスとして貴重なものとなりました。

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