欧州のターミナル駅周辺の治安が悪い理由を日本と比較して考える

2017年04月06日      2017年04月06日
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ターミナル駅周辺のイメージというと東京駅丸の内口や新宿駅西口の高層ビル群を私たち日本人は想像してしまいがちですが、所変わってヨーロッパとなるとイメージは異なり、駅前の一等地とされる場所にある/いるのは、敷物を広げた物売り、物乞い、何をすることなくたむろっている集団など、貧困層にカテゴライズされる人々が集まっていて雑多な空間が形成されています。

もちろん再開発された新しい駅はこの傾向が弱いのですが、パリ北駅やローマ中央駅、ナポリ中央駅などヨーロッパでも名だたるターミナル駅でも、駅周辺が再開発されていない大型駅は治安の悪い傾向が間違いなくあります。

この大型駅周辺の治安が悪い傾向について今回は、その歴史的背景を考えながら文章にしていきます。

日本も海外も昔の駅前は雑多だった

地下鉄や鉄道が乗り入れる大規模な駅周辺はビジネス街化もしくは商業エリア化しているところがほとんどです。山手線が通る大規模ターミナル駅を挙げても、東京駅、新宿駅、渋谷駅、池袋駅などいずれも駅を中心にかなりの規模の商業圏が広がっています。

ただ、時代を終戦後まで遡り、大規模駅周辺エリアの土地利用を見てみると、駅周辺で必ずと言っていいほど目にしたのはヤミ市でした。僕の地元、埼玉の大宮駅前にもかつては大きな闇市が広がっていたと祖母から話を聞いたことがあります。

なぜ駅前にヤミ市はできたのか

↑戦後の混乱期の東京を舞台にした小説。この話の中にもヤミ市が登場します。

ヤミ市は基本的に大型駅周辺に作られました。それは駅がモノと人の移動の要衝だったからです。戦後の食糧難という状況下において大規模駅を起点に集まる食料・物資を売りさばく商人と、それを求める人によってできたのがヤミ市です。上野駅と御徒町駅間に伸びるアメヤ横丁はまさにそのパターンでしょう。

鉄道駅周辺という立地は、駅に集まる物品を横流しするのに最適な場所でした。

なるほど、物資輸送の観点から見ると河川沿いや高速インターチェンジ付近に工場や倉庫街が多いのと同じように、物資の移動路と物資の利用所・貯蓄所は隣接していた方がなにかと効率がよいのです。

ヨーロッパでの大型駅周辺の様子

陸続きで鉄道輸送が発達した欧州諸国でも同様のことが起こっていました。駅に到着した物資の運搬作業員(ポーター)やその周辺に形成された市場や工場の作業員という職を求めて、手に職がない人々は鉄道駅周辺に集まってきたのです。

こうした労働生産性の低い不安定な職に就くのは多くの場合、貧困層の人々です。彼らの仕事場および生活圏となった鉄道駅周辺は次第に「貧困層の集まる治安の悪い場所」という性質を帯びていったのです。

では、なぜ現在の東京のターミナル駅周辺が高度にビジネス街化しているのに対して、欧州の駅前は以前貧困層の集まる場所になっているのでしょうか。

ヤミ市の終焉と再開発

戦後の鉄道駅周辺の性質を決定づけたヤミ市は徐々に下火になっていきます。駅前の土地利用の変化として決定打となったのが70年代のバブル景気。駅前の利用価値が見出されたことで、激しい地上げの対象となり、一気にビジネス街化されていきます。経済が駅前をビジネス街に推し進めたのです。

残る貧困層と再開発ができない欧州都市

対してヨーロッパ諸国ではどうでしょうか。もちろんフランスでも日本と同様に50年代から70年代にかけて「黄金の30年」と呼ばれる高度経済成長期がありましたが、その恩恵を受けたのは社会全体ではなく、貧困層の境遇に大きな変化はありませんでした。フランスは”総中流社会”にはなれなかったのです。

そして、これはパリを例にすると分かりやすいですが、ヨーロッパの歴史的な都市では保護主義的な都市政策から大規模開発がほとんど行われません。昔のものは昔のまま保存しておこうというのが彼らの考え方です。スクラップ&ビルドで造られてきた日本の都市に対する精神構造とは明らかに異なる点がここにあるのです。

すると鉄道駅周辺に再開発の声がかかることも日本と比べては少なくなります。もちろん歩道の整備だったり、最近では駅ナカにショッピング街が併設される駅もいくつかありますが、駅の周辺をガラッと変えるような大規模プロジェクトは非常に行いづらい状況にあるのです。

保護主義的な都市政策から大規模再開発が行われないことで、駅前は貧困層のものとして21世紀も残り続けているのです。

まとめ

ここまで見てきたことの要点をまとめると、欧州の鉄道駅周辺の治安が悪い理由は次のようなステップで説明できます。

  1. 鉄道駅周辺は貧困層向けの職にあふれていた
  2. 駅周辺=貧困層の生活圏となる
  3. バブル景気でも貧困層の暮らしは変わらず
  4. 再開発は都市政策の影響で実施できない
  5. 駅前は貧困層が現在も集まっている

冒頭にも述べたように再開発された大型駅では、駅周辺の様子も変わっており、もはやそこは貧困層の巣窟といった様相はありません。ウィーン中央駅やベルリン中央駅などがその分かりやすい例だと思います。

こうした治安の悪さもどこかで改善できるポイント、今回でいうならば明らかに再開発の有無ですが、があったはずで、こういった面でも都市政策判断の重要さが身にしみてわかります。

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