地元の人なら危険だから近寄らない、避けて通るような「治安の悪い」地区。こうしたエリアは海外の観光都市には必ずと言っていいほどあるが、土地勘がない旅行客の場合、そうと知らずに足を運んだり、宿泊先として選んだりする恐れがある。
もちろん一度も行ったことがない場所の治安を知るのは簡単ではない。ただし、世界広しといえども、治安が悪い地区にはいくつかの共通する項目があるので、その傾向を知っておくことでトラブルに巻き込まれる可能性を下げることは可能だ。
この記事では土地勘のない海外旅行先でトラブルに合わないため、そして治安が悪い地区を避けるため、これまで数多くの海外都市に足を運んできた筆者から見た治安が悪い地区の目安となるものを紹介していく。
このページの内容
治安の指標
治安が悪い場所にはそれを知らせるサインがある。ここでは以下6つの「危険」を知らせるサインについて、なぜ危ないのか、その理由を話していく。
- ゴミの散乱
- グラフィティの多い場所
- 鉄道駅・大型駅周辺
- 低所得者層向け団地
- 線路・境界・工事現場付近
- スポーツ系の施設周辺
ゴミの散乱
路上に放置されたビール便、散らばった家庭ゴミ、マットレス、角材。こうした路上に散らばる障害物は通行の邪魔をするだけでなく、そのエリアに行政の手が十分に行き届いていないこと、モラルの低い人が多いことを意味している。
ゴミの散乱のわかりやすい例として次の写真を見てもらいたい。この写真は財政破綻と治安悪化の二重苦の只中にあるギリシャの首都アテネを訪れた時に撮った写真だ。
この辺りは街の中心街かつ観光地区ということもあり、日中は観光客や地元民が多いエリアである。実際、細い通りなどを含め一通りこのエリアを歩いたが危険な様子は感じなかった。
しかし夜が近づくにつれてあたりの雰囲気も変わる。観光客や地元の人は徐々に姿を消し、移民出身系の物売りや地元の不良集団が集まる場所に姿を変えていた。
こうした経験からも、ゴミの散乱度は「治安が悪い」地域の指標の一つとして注視するべきものである。
グラフィティ(落書き)
散乱したゴミの他に「治安が悪い」場所の目安としてよく言われるのがグラフィティ(落書き)だ。
しかし、グラフィティに関してはゴミの散乱とは異なり——もちろんグラフィティがある場所はそうでない場所と比べて治安の悪い傾向があることは間違いないが——落書きのある場所の治安が必ず悪いわけではない。例えば次の写真。
この写真はパリ13区にあるMaison des frigos(メゾン・デ・フリゴ)というかつての冷凍倉庫を改造したアトリエを訪れた時のもので、落書きは完全にアート化している。
他にも、例えば同じパリ市内だとショッピング街として観光地にもなっているマレ地区には次の写真のような袋小路があり、グラフィティの中には「ストリートアート」として観光地化している場所もあるので必ずしもグラフィティ=治安が悪いとはならない。
中には日本の招き猫をデザインしたグラフィティもあった。
ただ、だからといってグラフィティ=安全と思うのは危険で、そもそも犯罪行為である公共物・個人所有物への落書きを行う人がいる場所は治安が乱れているエリアである可能性が高いことは間違いない。
大型鉄道駅・地上駅周辺
東京駅や新宿駅、渋谷駅のような鉄道が乗り入れる大型地上駅周辺は日本人のイメージからすると駅前の好立地で地価が高く、治安の悪い地域というよりはビジネス街のイメージが強い。東京駅の丸の内口はその際たる例である。
ただし、ヨーロッパの鉄道駅は日本とは傾向が違い、次の3つの理由から主に治安が悪い場所とされることが多い。
- 観光客狙いのスリが多い
- 仕事のない人が溜まっている
- 郊外の貧困地区からアクセスしやすい
実際に大型駅の雰囲気がどのようなものかナポリ中央駅、ローマ中央駅、パリ北駅の駅前でそれぞれ撮った写真を紹介する。

南下するほど治安が悪くなると言われているイタリア。その南部に位置するナポリは多くの移民出身者が集まっており、なかでも駅前は物売り、スリ、ホームレス、不良など旅行客を狙うならず者が多い。

ローマ中央駅もナポリ中央駅と同様。移民に背景を持つであろう風貌の男たちが昼間から集団でたむろしている。この駅はイタリアの首都の玄関口でもあるため、常に人でごった返しているのでスリにも注意が必要だ。

パリ北駅の周りはいわゆるガイドブックやテレビの中で紹介されるパリとは全く異なる世界で、南アジア系、中東系、北アフリカ系のグループの溜まり場となっている。
駅前は歴史的に治安が悪い場所
大型駅周辺のホテルはその立地にしては驚くほど価格が安く設定されている。なぜか。それは大型駅周辺は歴史的に貧困層が多い地域だからだ。
ヨーロッパとなるとイメージは異なり、駅前の一等地とされる場所にある/いるのは、敷物を広げた物売り、物乞い、何をすることなくたむろっている集団など、貧困層にカテゴライズされる人々が集まっていて雑多な空間が形成されています。
欧州の鉄道駅周辺の治安が悪い理由は次のようなステップで説明できます。
- 鉄道駅周辺は貧困層向けの職にあふれていた
- 駅周辺=貧困層の生活圏となる
- バブル景気でも貧困層の暮らしは変わらず
- 再開発は都市政策の影響で実施できない
- 駅前は貧困層が現在も集まっている
地元の人であればそもそもこうした「曰く付きの場所」に足を運ぶことは少ないが、日本人は日本のイメージに照らし合わせて利便性とその価格から鉄道駅周辺のホテルを選んでしまいがちなのだ。
そして、この誤った判断は利便性・お得感と引き換えに窃盗や傷害事件に巻き込まれるケースへと発展することもあるので土地勘のない場所では避けることを強くすすめる。
低所得者層向け団地
日本が戦後の住宅政策で公営住宅(団地)を大量に建設したように、海外の大都市でも20世紀後半に大規模な団地建設ラッシュがあった。
こうした団地群が密集しているのは主に都市の周縁部で、日本においても団地のイメージはあまり良いものではないが、日本のような前時代的でノスタルジックな見た目だけでなく、海外では場所によっては全く近づけないほど荒れているところも少なからず存在する。
例えば次のルポルタージュを見てもらいたい。フランス南部マルセイユの警察が郊外団地に潜む麻薬グループを検挙しようとするシーンで犯人を逮捕した後、団地の住民からの投石に遭う。
団地は本当に危険だ。筆者はこれまでパリを中心に団地群を訪れてきたがカメラが出せるような場所は多くない。

上の写真のような高層住宅というと日本ではタワーマンションのように高級なイメージがあるが、海外では70〜90年代に建てられた低所得者層向けの住居となっている場所が多い。

ちなみにこの写真を撮ったパリ13区の団地の裏手の雰囲気はあまり良くなく、撮影時、屋根の上でいくつかの若者集団がたむろしていた。(もちろん彼らの写真はない。気づかれたら一巻の終わりである。)
線路脇・高架下・工事現場
日本でも線路脇、高架下、工事現場周辺のイメージはあまり良くないはずだ。日本であれば地元のヤンキーが溜まっていることがあるぐらいで実害は無いに等しいが、海外の場合、そうはいかない。
大型駅周辺の治安が悪いのと同じように、再開発計画に取り残された線路沿いの貧困地帯は治安が悪い傾向にある。
高架下も同様に危険だ。筆者がパリ生活で唯一、ひったくりに遭いかけた場所はパリ郊外へ向かう高架下だった。
パリでひったくりにあった。パリ市内を観光中は注意&その対処法
スポーツ系の施設周辺
治安の悪い場所にはバスケットコートやフットボールコートのような運動場が多く設置されている傾向がある。その目的とは、いくつかあるが、
- 何もすることのない若者のストレスを発散させるため
- 犯行に走らせないため
にバスケットボールやサッカーコートが設置されている場所もある。
ヨーロッパのあまり裕福ではない人々が暮らす地域にはサッカー・バスケ用のコートが多く設置されている傾向があり、その理由の一つは、表立って語られることは少ないですが、こうした人々のストレスを解消させ、恐喝やスリ、強盗など反社会的活動に走らせないようにする狙いがあります。

治安を見分ける6つの指標まとめ
これまで見てきた指標を改めて振り返ると次のようになる。
- ゴミの散乱
- グラフィティの多い場所
- 鉄道駅・大型駅周辺
- 低所得者層向け団地
- 線路・境界・工事現場付近
- スポーツ系の施設周辺
これから海外旅行のホテル予約を検討している人は、こうした指標に当てはまらないかを渡航前に確認しておくことを強くすすめる。指標の確認は簡単で、GoogleMapsのストリートビュー機能を使ったり、「パリ18区 治安」のようなキーワードでGoogle検索をかけたり、必ず探りを入れるようにしてもらいたい。
そして、必ずしもこのページで紹介した指標に当てはまる地域がすべて危険とは限らないが、脅しではなく、日本の治安の悪さと海外の治安の悪さは本当にレベルが違うので旅行前には心構えをしておくべきだ。
